アジアの高成長を取り込む

過剰設備や経費の削減については、日本の内需は長期停滞し、外需もリーマンーショツク以降、急減してしまい、需要が供給に見合わず、過剰供給を抱えている産業が多くあります。日本企業は不採算でも、撤退しない企業が多いことが問題です。多くの家電メーカーは、いまだにそろってデジカメ、冷蔵庫、エアコンなどをつくっています。M&Aを行えば、過当競争が和らいだり、共通するコストを削減することによって、企業経営の効率を改善することができます。売上減少に歯止めがかからない百貨店の相次ぐ経営統合は、過当競争を緩和する目的がありました。素材でも、新日本石油新日鉱ホールディングスも2009年10月の経営統合契約の際に、2011年3月までに日量40万バーレルの石油精製能力を削減すると発表しました。

研究開発費や製品開発費の削減目的のM&Aは、薬品業界でよく見られます。日本の製薬会社は国際比較で、上位10位に入る企業がありません。新薬の開発には莫大な資金力が必要ですが、企業が小さいと、研究開発のために使える資金も小さくなります。M&Aで、企業規模が大きくなったほうが、新薬開発力が高まります。ブランド入手目的のM&Aと⑨の救済的M&Aには、花王粉飾決算も明らかになって産業再生機構(当時)の支援を受けたカネボウを2006年に買収した事例などが当てはまります。ブランドカが物を言う化粧品業界にあって、花王カネボウーブランドを維持しながら、生産・販売・物流のコスト削減を通じて、シナジー効果を出そうとしています。2008年に山崎製パンが、期限切れ原材料を使った洋菓子の製造・出荷のスキャンダルで経営難に陥った不二家を子会社化した事例もこの分類に入ります。

M&Aをマクロ的に考えると、日本企業の外国企業買収は、海外経済の高成長を、日本に取り込む効果があるといえます。最近、日本の政治家もアジアの高成長を日本の内需として取り込む必要があるとよくいいます。日本からアジアに輸出しているだけでは、GDP上の外需でしかありませんが、日本企業がM&Aを通じて海外で稼いだ資金を国内に戻して、国内の投資や雇用の増加につながれば、日本のGDPを押し上げる効果があります。こうした動きを後押しするために、2009年度より、日本企業が海外の留保利益を国内に配当金として送金する場合に課税が免除されるようになりました(日本版H7エA法と呼びます)。ただ、日本企業は海外での利益成長を目指しているので、海外利益を現地で再投資する傾向が強いようです。

日本企業はM&Aを通じてグローバル化を進めることで、アジアの高経済成長を利益成長に取り込むことが可能です。アジア通貨危機とりIマンーショックの影響を除いて考えるために、1999〜2007年で見ると、中国の年平均EPS(1株当たり利益)成長率は23%だったのに対して、日本(金融を除く東証1部上場企業)の2000年3月期〜2008年3月期の年平均経常利益は16%と、中国を多少下回った程度でした。日中の実質GDP成長率に約10倍も格差があることを考えると、企業収益の伸び率の日中の格差は小さいといえます。日本企業が海外企業を買収し、企業収益を拡大すれば、日本の株価が上昇し、資産効果を通じて、個人消費や設備投資を押し上げる効果があります。

日本経済の将来を悲観的に考える外国人投資家からは、将来的に日本は、ポルトガルのようになるとの指摘があります。15世紀の大航海時代ポルトガルは植民地経営で帝国を築いたものの、今では観光が主の国になってしまいました。欧州の端にあるポルトガルと、アジアの端にある日本が地理的に似ていることから、日本経済もこのまま衰退し、中国を中心とするアジア人にとっての観光の国になってしまうとの考えです。一方、日本は1970年代の英国のようになるとの見方もできます。英国は財政赤字拡大とインフレで、対外収支が悪化し、1976年にIMFからの借入に追い込まれました。1979年にサッチャー首相が就任し、大胆な改革を行いました。英国企業はグローバル化を進めることで、英国経済の衰退にもかかわらず、成長を維持しました。