どんなときに発生するか

群集行動の心理的過程はある程度理解できるが、実際に人々が群集化したり群集行動を示すことは、そうはみられるものではない。

それでは、いかなる条件において群集行動が発生するのであろうか。ふつうは、単なるのぞき見的な興味だけでは人々は群集化しても運動暴発になることはめったにないが、自分たちがおかれている事態が自分たちにとって危険なものであったり不利をまねく場合には、群集化し運動暴発となることが多い。

たとえば、劇場見物をしている時に、突然火事が発生したような恐怖場面においては、群集行動が容易に引きおこされる。あるいは乗っている電車が突然止まってしまい、動き出さなかったり、野球のプレーが長い間中断されたりすると、人々は群集化し騒ぎ出すのである。

しかし、これらの事態においても、群集行動が引きおこされる前に、状況に関して十分な情報が人々に提供されさえすれば、混乱をくいとめることができるであろう。

人々が群集化し、混乱をまねくのは、つねにこうした事態において、十分な情報が提供されないときなのである。十分な情報さえ提供されれば、たとえ、劇場に火事が発生したとしても、観客を適切に誘導し安全な場所に避難させることができるであろうし、電車が止まったとしても、また野球のプレーが中断されたとしても、人々は静かに待つことができるであろう。

また、いったん群集行動が引きおこされると、こんどは、正しい情報がなかなか伝達しにくくなるばかりか、デマだとか流言蛮語がはばをきかすようになってしまい、事態はますます収拾のつかない危険な状態になってしまうことが多いのである。

しかも、群集行動が引きおこされると人々は、一種の感覚遮断の状態におかれたようになり、客観的に事態を判断する力を火つてしまうだけでなく、非常に原始反応をおこしやすい状態になってしまうのである。