沖縄伝統食にはダイエット効果もあった

本土の「フーチーバー」(よもぎ)は道端などに生えているが、沖縄ではよもぎ畑があるほどよく使われる食材である。本土のよもぎと違って苦みが柔らかくて香りがいい。腹痛のときは「ジューシー(おじや)などにして食べた」が、冷え性や血圧降下に効果があったという。ビタミンA、B2、Cのほか、鉄分やカリウム、食物繊維、葉酸などが多く含まれ、昔から「万能の薬草」として重宝されてきた。「風邪を引いたときは青汁に黒砂糖を入れて鼻をつまみながら飲んだわ。あせもや神経痛にもいいから、風呂に入れて使った」「血圧の高い父は、これを乾燥させてお茶にして飲んでいた」ただし、私も風呂に入れて使ってみたが、ポリエステル樹脂が緑色に染まってしまい、そのままでは使えない。

ちなみに葉酸は胎児の正常な発育に関係しているが、最近では心臓病などの循環器疾患のリスクを下げると言われている。比較的多く含まれているのは、パパイヤのほかに、ゴーヤ、ナーベーラー、ウンチェー、ヨモギ、イーチョーバ、ハンダマ、ニガナなどだ。「ニガナ」は方言で「ンジャナ」というが、健胃野菜として知られる。見た目はほうれん草に近いが、生の葉を食べるとその名の通りほろ苦いが、ビタミンAはトマトの五・五倍も含まれている。「夏の暑くて葉野菜がないときの唯一の食材で、海などに行ったときに海岸で摘んで持ち帰り、汁の具などにして食べた。疲れて胃痛や胸焼けがするときはそのまま噛んでいた」「細切りにして氷水に漬け、水をよく切って醤油とごま油、塩であえて食べると胃腸や風邪によく効いた」「カンダバー」はサツマイモの葉と言えばわかりやすい。ビタミンCや食物繊維が多く、「便秘知らず」と言われる。また、脳卒中の予防やコレステロールの抑制効果もあると言われてきた。

「不老長寿の薬」とも言われた「ハンダマ」(水前寺菜)は、昔はどの家の庭にはあったという。葉の裏が紫色で、加熱するとぬめりが出る。紫色をしているのは眼精疲労の回復や肝機能向上の作用があるアントシアニンを含んでいるからだ。ビタミンAや葉酸が多く、「風邪の引きはじめに肉汁に入れたり、ジューシーにして食べた」という 「クワンソウ」(のかんぞう)の根には、アミノ酸アスパラギンサ酸、アルギニンなどが含まれ、利尿作用がある。「肝臓の悪い叔父が、川のタニシと一緒に煎じて食べていた」という。不眠症のときは「刻んで乾燥した根や葉を煎じて飲んだ」ともいうから、今でいう睡眠導入剤のようなものだったのだろう。

「サクナ」はカロテンやビタミンA、C、カルシウムが豊富で、「風邪のときはよく食べた」そうだ。また根は神経痛やリウマチの痛みにいいと言われ、乾燥させたものを煎じて飲んだ。「ナーベーフ」(へちま)も食欲不振のときに豆腐と味噌煮にして食べたという。「糖尿病や腎臓病にいい」とも言われた。「イーチョーバー」(ういきょう)にはビタミンAがトマトの七・二倍、ビタミンCがほうれん草の一二一倍(以下、出典は『伝統的農産物振興戦略策定調査事業報告書』による)含まれる。「食欲のないとき、胃の調子が悪いとき、風邪のときはよく食べた」そうだ。最近、、沖縄で俄然注目されているのが「雲南百薬」である。マグネシウムがレタスの八倍、カルシウムがピーマンの六倍等々と、ミネラルが豊富で「メタボに最高」と言われるスーパー野菜である。中国雲南省が原産らしいが、沖縄で育てたほうがミネラルが高くなるとされ、いずれ沖縄の代表的な伝統野菜になるだろう。

沖縄伝統食にはダイエット効果もあった。これらはいずれも経験則だが、サプリメント的にそれぞれの効能を実証することはむずかしい。たとえば、ハンダマならハンダマだけを1ヵ月間食べるというのは、まず不可能だからだ。では、クスイムンは伝承にすぎないのかというと、実は、高血圧予防に効果があるという。「チャンプルースタディー」という琉球大学医学部の等々力英美准教授らの研究がそれである。普段、沖縄料理を食べない沖縄在住の米国人一五〇人をくじ引きで二組に分け、A群は、月曜から木曜までゴーヤ、サクナ、ニガナ、ハンダマなどの沖縄伝統野菜(一日につき〇・五キロ)を使った沖縄料理のチルド食を食べてもらい、土日はゴーヤジュース約一リットルを飲むという食生活を四週間続けてもらった。