アジアの安定

国際関係における日米協力といっても、アジア以外の地域、問題を対象とした協力は、まだ始まって日が浅い。また、その評価をおこなうに先だって、変化する国際環境の下での日米関係のあり方を全般的に検討しないと、この協力の性格を正確に捉えることもできない。したがってここでは、アジアでの日本の対米協力に限定して見ることとする。

東アジア経済の発展ぶりは、世界のほかの地域と比較しても顕著なものがある。また、1978年以来の中国の路線転換、フィリピン、ついで韓国で進展しはじめた国内民主化の動きを含め、この地域の政治的安定化の進捗も、数年前までは予想できなかったほどのものがある。これらの経済、政治両面にわたる肯定的変化は、決して偶発的なものではない。

日本、NIES(新興工業経済地域)、ASEAN諸国、さらには中国へと経済発展・開発戦略重視の政策が波及し、これら諸国の経済的好転がもたらされた。そのことがまた、政治的安定を導き、ひいては東アジア地域全体の国際環境を改善する結果となっていった。しかし私たちは、全体の流れを捉えることと、そのような流れの下に存在する問題点を明確に認識することとを、混同しないようにしたいと思う。

大きな流れとしては確かに、東アジア経済の発展は、アジア・太平洋地域全体の緊張の緩和に貢献している。ヴェトナムや北朝鮮など、従来閉鎖的体制にあった国々を含め、地域での共存をめざす動きが現れていることは、このような流れを抜きにしては考えられない。ソ連が、ゴルバチョフ政権になってからこの地域への関心を強めている背景にも、この明らかな流れに対する強い関心がある。このことは、ウラジオストック(1986年)、クラスノヤルスク(1988年)の二つの重要なゴルバチョフ演説からもハッキリと読みとることができる。

他方、東アジア経済の活力は、各国が推進する輸出指向型開発戦略の成功によっている面が強い。この戦略がこれまで順調であった背景には、世界経済とくにアメリカの市場が拡大したことが大きく働いている。だが、世界経済が今後も順調に拡大するかどうか、そして、東アジア諸国の経済開発の進行を保証するにたる市場条件が確保されるかについては、大きな問題が生まれている。

そのほか、これまでの東アジア経済の発展は、すぐれて自然成長的であって、地域の協調的発展をめざす意識的努力が生まれるに至っていない。各国の近代化努力が経済分野に限定され、国内政治面での近代化、すなわち民主化という課題が多くの国々で注意深く排除されているという問題も、長期的にみた場合、決して無視できない。要するに、東アジアの経済的繁栄と政治的安定は、まだまだ楽観を許す段階にまで到達しているとみることはできない。